シネマ感想文12 〜青春映画この一本

なにかと〈昭和〉のノスタルジーが取り沙汰される昨今。それならばと1980年代の青春映画について書こうしたときに、真っ先に思い浮かんだのがこの作品。ネット上でも多くのサイトで「ミュージカル・ダンス映画人気ランキング」第1位に選出されるこの一本が、

『フラッシュダンス』
(1983年、アメリカ映画)

監督エイドリアン・ライン、主演ジェニファー・ビールス。鉄鋼の町ピッツバーグを舞台に、昼は製鉄所の溶接工、夜はナイトクラブのダンサーとして働きながらプロのダンサーになることを夢見る18歳の女性“アレックス“の紆余曲折のサクセスストーリー。

当時、低予算で製作されたこの映画は批評家からの評価も低いもので、「スタイルばかりで中身がない、ストーリーはぎこちなくぶざまである」など酷評されています。ところがこの作品の世界的な大ヒットが証明しているように、ぎこちなくぶざまなストーリーだからこそ主人公の女性のひたむきさに共感し、そんな彼女が苦難を乗り越えて披露する圧倒的なダンスと音楽だからこそ観客は魅了されたといえそうです。

しかしながら、この映画が1980年代の〈青春映画この一本〉である理由は他にあります。

映画の中盤、主人公アレックスが友人と街の裏通りを歩いているシーン。通りの真ん中で若者たちが何やら見かけないダンスをしています。ウェーブ、ムーンウォーク、ウィンドミル・・それらは日本人の多くがはじめて知ることとなる〈ブレイクダンス〉の数々、このわずか1分ほどのシーンに日本の若者は大きな衝撃を受けます。おそらく現在に至る日本のストリートダンスの原点はこの瞬間だったと言って間違いありません。

そしてこの作品が若者に与えた衝撃はダンスだけではありません。この映画の主題歌は作品の一部シーンを予告編のごとく編集したミュージック・ビデオとして、放送開始したばかりのMTVなどケーブルテレビ・チャンネルで繰り返しオンエアされるという画期的なプロモーションが行われました。最新の映画の主題歌をMTVという最先端の音楽ツールで知ることとなった音楽好きの若者にも多大な影響を与えたようです。

ダンスと音楽。
1980年代の若者の文化にあまりにも多くの影響を与えたこの作品は間違いなく〈青春映画この一本〉といえそうです。

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