シネマ感想文3〜〝あきらめない〟の演技

『アビス』(1989年、アメリカ映画)

遭難した米原子力潜水艦の救助に協力したバッド(エド・ハリス)をリーダーとする民間深海作業チームの活躍と未知の知的生命体との遭遇を描いたSF深海アドベンチャー大作。

この映画の終盤に描かれたバッドの妻リンジー(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)の「蘇生」シーン。医療系のTVドラマを含めても、これを超えるものはないと確信する映画史に残る名場面であり、最高レベルの〈迫真の演技〉といえるのではないでしょうか。

ー 深海。生還するために、あえて自らが溺れて仮死状態となったリンジーを抱えて、海底基地〝ディープコア〟に泳ぎ着いたバッドは、仲間と共にリンジーの蘇生措置を開始します。

酸素吸入、アドレナリン注射・・

「息をしろ、さあ!」

バッドは心臓マッサージを続けます

「3秒、4秒・・どいて!」

心臓への電気ショックが繰り返されるが

リンジーの心拍は停止したまま

「ベイビー、息をしてくれ!」

やがて彼女の身体を揺するバッドの手を

仲間が静かに止めようとします

「あきらめろ・・脈もない。」

茫然とするバッドの手が止まり

長い静寂が流れます

観客はこのような場面で(主演女優だから助かるはず・・)と、たかをくくります。

ところがこのシーンの臨場感はそんな浅はかな予想を覆していきます。とにかくリンジー役の女優メアリー・エリザベスの演技は圧巻で、凍りついたように真っ白になった全身、瞳孔は開いたまま、半開きの口元はピクリとも動きません。

そして長すぎる静寂は、観客の期待を裏切り、リンジーの〈死〉を受け入れるための時間となります。

ここから映画史に刻まれるエド・ハリスの〈迫真の演技〉が始まります。

「NOーーー!」

バッドが仲間の手を払いのけ、心臓マッサージを再開します

「彼女の心臓は強い!」

「生きたいと願っているはずだ!」

酸素吸入器も外し、人工呼吸を繰り返します

「もう一度電流を!」

「ベイビー頼む息をしてくれ」

「負けるのは嫌いだろ、君らしく闘え!」

汗と涙を飛び散らせながら

リンジーの身体を激しく揺さぶります

「さあ、闘うんだ、闘ってみせろ!」

「ファイト!ファイト!ファーーイト‼︎」

そして、リンジーは息を吹き返します

観客の予想を覆し、〈死〉を確信させたメアリー・エリザベスの〈迫真の演技〉。

それを凌駕する、最愛の人を〈死〉から蘇生させたエド・ハリスのあきらめない〈迫真の演技〉。

このSFアクション映画は、このシーンによってヒューマンドラマの名作になったといっても過言ではありません。

何度見ても色褪せない、エド・ハリスの魂を揺さぶる〝ファイト!3連発〟。

ぜひオリジナル英語音声で聞きたいセリフですね。

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