映画作品の中で描かれる美しい大自然の映像に魅了されることが稀にあります。しかしながら単に景色が壮大で美しいだけの映画ではそう感じることはありません。「大自然に魅了される映画」には何か理由があるはずだと考えていたところ、どうやらその答えはこの映画にありそうです。
『グラン・ブルー』
(1988年、フランス・イタリア合作映画)
監督 リュック・ベッソン、出演 ロザンナ・アークエット、ジャン=マルク・バール、ジャン・レノ。素潜りで深度を競うフリーダイビングに挑む二人のダイバーの友情と軋轢、そして海に生きる男を愛してしまった女性の心の葛藤を描く海洋ロマン。
制作資料によれば、10代の頃からダイビングに親しんできたベッソン監督が、長年の夢だった〈イルカに魅せられた潜水夫の物語〉を、実在の天才ダイバーでこの映画の主人公ジャック・マイヨール本人の協力を得て映画化したとあります。しかしながら映像作家リュック・ベッソンが本気で描きたかったものは、自らの青春時代に夢中になり魅了された美しい大自然の〈海〉そのものだったに違いありません。そう考えることでこの映画のドラマ性がようやく理解できるともいえます。
父親の命を奪った海。
その喪失感を癒してくれるイルカのいる海。
危険を冒しても知り尽くしたい神秘の海。
そして妻と子を置いても還らなければならなかった海。
そこまで魅入られてしまったジャック・マイヨールに共感できるほどの魅惑的な海を描かなければドラマ自体が成り立ちません。もっといえば、観客の誰もが魅了される海を描くことができれば、その海は〈背景〉としてではなく、主人公が魅せられた〈ヒロイン〉ほどの印象を与えることができる。この作品のように「大自然に魅了される映画」には映像だけではない理由が必ずあるといえそうです。
撮影期間9ヶ月、全編を通して描かれる世界の海は必見です。とくに前半に登場するシチリアのキラキラ輝く地中海の風景には心奪われますね。大好きな映画です。