常照我

父方の祖母のエピソードをひとつ書き残させていただきます。明治43年生まれの祖母は太平洋戦争で夫を亡くし、その後は四人の子供の子育てをしながら小学校教諭と寺の代務住職を長く勤めたという大変な苦労人でもあります。

そんな祖母が生涯の趣味としたのが川柳ですね。趣味が高じて川柳えんぴつ同人となり、さらには句集『鐘の音』を発刊します。あるとき祖母がNHKラジオから作句活動についてのインタビュー取材を受けることになり、当時学生だった私は「おばあちゃん、すごいなあ」と感心したものです。そう思ったに過ぎなかったんですね。

さて月日は流れて、つい先日の彼岸の明けの日。自宅の書棚にあった祖母の遺稿川柳・追悼文集『常照我』をたまたま手にとり目を通したところ、追悼文の一つに祖母が40年前にラジオ出演するに至ったいきさつが書かれていたんです。

当時、祖母の同人仲間だったあるお友達がNHKテレビの番組「我が趣味」に出演されたときのこと、収録後に番組担当の井筒屋勝己アナウンサーと歓談の折りに「好きな句は?」と問われたお友達が祖母の一句を挙げたところ、井筒屋アナウンサーが大変感激されて「是非その人にお会いしたい」と仰り、先のラジオ出演になった次第とのこと。
そのときの祖母の句が、

「合掌と拳どちらもわたしです」

いかにも親鸞聖人のお教えを深くいただいた祖母らしく、罪悪深重の凡夫の理を見事にあらわした一句に身内ながら感銘を覚えたものであります。

「この句が好き」と仰った方、
「この句の人に会いたい」と仰った方、
一句の川柳から導かれた幾つものご縁のお陰であのラジオ放送が実現したこと、そして一句の川柳のお陰であらためて祖母の面影に思いを馳せたこと。

春のお彼岸に起きた不思議なご縁の出来事です。

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