シネマ感想④ 〜 はじめての〈韓流〉

2021年9月、動画配信サービス〈Netflix〉から配信された韓国ドラマ『イカゲーム』が世界的に大ヒットしているようです。記憶に新しいところでは2019年テレビドラマ『愛の不時着』、2020年の第92回アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』など〈韓流〉ともいわれる韓国エンターテイメントの勢いはとどまることがないようです。しかしまだ〈韓流〉という言葉もなかった1999年、日本人が度肝を抜かれ、はじめて韓国映画の底力を知った作品を取り上げてみます。

『シュリ』(1999年、韓国映画)

ー 韓国の国家諜報員ジュンウォン(ハン・ソッキュ)と北朝鮮の女工作員イ・ミョンヒョン(キム・ユンジン)の悲恋を描くアクション大作。

ハリウッドにまったく引けをとらない壮絶なサスペンスアクションの魅力と共に、やはり最大の見どころは民族の「分断」という国家問題を背景にして、北朝鮮の女性と韓国の男性との決して結ばれることのない純愛を描いた〈物語〉そのものといえそうです。劇中「キッシンググラミー」という熱帯魚が幾度も登場し、その中で「つがいの片方が死ぬと、もう片方も死んでしまう魚です」と語るミョンヒョンの瞳がとても切ないのが印象的です。

そしてラストシーン。
ミョンヒョンは韓国側の機動隊に包囲され、ジュンウォンと銃口を向け合いながら対峙します。やがてミョンヒョンが銃口を逸らして発泡した直後、ジュンウォンがミョンヒョンの頭を撃ち抜きます。このシーンのカメラワーク、ふたりの間をカットが3度、スローモーションで行き来します。

ジュンウォン 「・・・」
ミョンヒョン (衝撃で激しくよろめく)
ジュンウォン 「・・・」
ミョンヒョン (驚きの表情で彼を見る)
ジュンウォン 「・・・」
ミョンヒョン (ほんのわずかな一瞬、優しい微笑みを浮かべて崩れ落ちていく)

あまりにも切ないこのシーン。ミョンヒョンの一瞬の〈微笑み〉の意味はなんだったのでしょうか。きっと、他ではない彼によって撃ち抜かれたからこそ、ようやく北の工作員と南の諜報員という不条理な敵対関係から解き放たれ、意識が遠くなるまでのわずか数秒間、心から純粋に彼を愛することができた歓喜の表情といえるかもしれませんね。

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