作詞の世界~歌謡曲編

令和21223日、作詞家・作家のなかにし礼さんが他界されました。

昭和歌謡の全盛期。当時活躍されていた多くの〈作詞家〉の中でも、なかにし礼さんには特に強い思い入れがあります。というのも、なかにし礼さんには、じつのところ2度も驚愕させられたからです。

1度目は幼少のころ、テレビの歌番組で見た細川たかしさんが歌う「心のこり」です。「わたしバカよね ♫」ではじまる歌い出しに〈何を言ってるんだこの人は・・〉とア然とした覚えがあります。そう、この歌の作詞はもちろん、なかにし礼さんですね。

そして2度目が二十代のころ、同じく歌番組で見た前川清さんが歌う「花の時・愛の時」。ぼんやり聞いているとサビに入り「海の底でふたり♫」と盛り上げ「貝になりたい♫」と感動的に歌い上げます。ところがこちらサイドは感動どころではなく、とにかく〈貝になりたい〉のフレーズに度肝を抜かれ、作詞は?と調べてみれば、そう、この歌の作詞ももちろん、なかにし礼さんでした。

当時、あらゆる音楽を聞くものの、歌詞の内容・意味についてはまったく無頓着でした。にも関わらず、その歌詞で2度も驚愕させられたことは鮮烈な記憶として残ることとなりました。

職業作詞家に「作詞で心掛けることは?」と問うのは愚問のようです。答えはひとつだけ「ヒット曲を書くこと」。なかにし礼さんも例外ではなく、自らが言いたいこと、伝えたいことなどは一切無用。ひたすら追い求めたのは歌詞など無頓着な人々の耳にも届く1フレーズ、1ワードだったのかもしれません。このことは、お念仏も煩悩まみれな我が身にもかかわらず、それを知ることに無頓着な我々の耳にも届く仏様からの1フレーズ(なんまんだぶ)ですね。

「いいも悪いもない、ただただ〈貝になりたい〉にはびっくりした」という感想は、なかにし礼さんにとってはまさに思うツボであり、最大の賛辞といえそうです。なぜなら30年を経た今もなお、心に突き刺さる不滅の1フレーズだからです。

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