NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』が佳境に入ってきました。「江戸のメディア王」へと成り上がっていく蔦屋重三郎の紆余曲折の物語からいよいよ目が離せません。
このドラマの主人公 蔦屋重三郎の職業は「版元」、現代でいうところの出版社ですね。吉原の間借りの本屋から始まり、やがて日本橋に居を構える「地本問屋」として飛躍していきます。この「版元」や「地本問屋」という職業は時代劇ではあまり描かれることのない職業でもあります。私のような拙い時代小説の読者にとっては時代劇の主人公の職業というのはとても重要であり、よく知らないほど、あまり馴染みがないほど、描かれたことがなければないほど、好奇心をあおられ興味をそそられるといえそうです。
ドラマと同じように、この小説が初めて世に紹介されたときも、今まで描かれることのなかった主人公の職業にとにかく「おもしろそう」と興味をもち、思わず文庫本を手に取った一冊が、
『お江戸けもの医 毛玉堂』
(泉ゆたか 著、2019年 刊行)
江戸時代中期。動物専門の養生所「毛玉堂」は、医者の凌雲と妻のお美津のふたりで切り盛りしている。凌雲は患畜の怪我や病気の原因が何なのかを推理し、飼い主の問題まで解決するという連作のミステリー時代小説。
いつもと様子が違う、異常な行動をする、人間ならば「どうしたの?」と声をかけて相談に乗るところです。ところがこれが物言わぬ動物たちのこととなれば、もはや立派なミステリーです。これこそがこの小説の魅力であり読みどころでもあります。「動物のやることには必ず理由があるはずだ」という凌雲先生の言葉から始まる動物謎解きエピソードの数々。どきどきハラハラしながらも、やがてほのぼのと心が癒されること間違いありません。
読みどころは動物たちだけではありません。謎多き凌雲の経歴であったり、お美津との関係、さらには夫婦で預かることになった少年、善次も加えて展開する人間模様からも目が離せませんね。
大好評の『お江戸けもの医 毛玉堂』はその後シリーズ化し、2022年に『玉の輿猫』、さらに2025年に最新作『うぬぼれ犬』が刊行されています。ぜひご一読ください。